2月1日から4日にかけて合計9本の映画を見ました。 TSUTAYAで借りたDVDが8本、映画館(試写室)で見た映画が1本。 まず9本目に試写室で見た映画のことから。 2月4日渋谷の映画配給&ミニシアター、アップリンクでの試写会で『風の馬』という映画を見ました。チベットの受難を中国国内での秘密のロケも交えて撮ったアメリカのポール・ワーグナー監督の1998年の作品です。 チベットについては昨年の春以来何度もこの日記に書いて来たので、なぜこの映画に関心をもっているかは敢えて書くまでもないと思います。 『風の馬』は3月後半からアップリンクでの封切りから全国で順次公開が予定されているので内容については細かいことは書きません。大体見た映画の事を喋りはじめると初めから終わりまでほとんどすべてのストーリーを昂奮して喋りまくるので、そのうち「もうやめて!」と言われるのがオチなのです。 でも、少しだけ内容を説明しますね。 20世紀終わりのチベット・ラサが映画の舞台です。 中国のチベット支配はチベット民衆の生活の隅々にまで苛酷な抑圧の網の目として張り巡らされています。 小さな抗議の声を上げるだけで逮捕、長期拘留そして死に至るような拷問が待っています。一方で中国当局はチベットの解放と民主化を成し遂げたというプロパガンダの政策を内外に垂れ流しています。 そんなラサのひとつの家族からチベットの現実を伝える緊迫したドラマが紡ぎ出されます。 仕事もなく酒と煙草とビリヤードに明け暮れる兄と天性の美声から中国とチベットの融和のシンボルとしての歌姫に祭り上げられようとする妹・・・妹を愛する善良な中国人、抵抗の声をあげて逮捕拷問されるいとこの尼僧、チベットの現実に心痛めるアメリカ人女性の撮影するビデオ映像・・・彼らをとりまくチベット人、中国人の姿・・・そしてラサを捨てて逃げる家族・・・。 これまで何本かのチベットを題材にした映画を見てきましたが、ドキュメンタリーではなくドラマとしてこれほどの完成度の映画は初めてでした。 ややもすると声高なプロパガンダ映画になりがちなテーマですが、この映画は決してそんなことはなく、現在の中国内チベット本土では日常的に起こりうる悲劇の様相をかなり抑制された映画技法で描ききっています。 映画に登場する人物はプロの役者と覚しき者もいればごく普通のチベット人も混在しています。このあたりはイランのキアロスタミ監督の映画にも共通する感覚かも知れません。 1993年にひとりのアメリカ人女性が税関で拘束され撮影したビデオ映像を中国当局から没収されるという事件があり、その女性の体験を記事にしたニューヨーク・タイムズ紙を読んだポール・ワーグナー監督が構想したのがこの映画だそうです。映画の完成は10年前のことですが、いま現在もチベット社会を覆う中国の抑圧的支配の実相は変わっていません。 この映画に描かれたことはチベット本土のどこにでも起こりうることだということは昨年春以来のニュースでも明らかなことだと思います。 試写会場で偶然、チベットのドキュメンタリー映画を2本撮った岩佐寿弥監督夫妻とネパールやダラムサラでチベット難民のポートレートを描き続けてきたイラストレーターの下田昌克さんと会い、上映後アップリンクのカフェでしばし談論。去年いっしょに「チベットを知るための夏」というイベントを担ってくれた3人です。日本のドキュメンタリー映画の世界での重鎮(本人はいたって飄逸なお人ですが)岩佐監督も痛く感銘を受けたようで『風の馬』についていろいろと話の花が咲く。映画の主人公・兄のドルジェ役のジャンパ・ケルサン氏が下田君とは17〜8年前にカトマンズで出会って以来の親友だったという偶然にも驚きました。両親がチベットからネパールに亡命してジャンパ氏は難民キャンプで生まれ、撮影当時はカトマンズで歌うミュージシャンだったらしく、下田君とはけっこうやんちゃな遊びをしていたそうです。 これ以上、内容については書きませんが上映中、涙腺のもろいボクは何度も涙が流れてしまったのでした。 チベットに関心のある方はもちろん、それほどでもない方にもぜひ見て頂きたい秀作だと思います。 長くなるのでDVDで見た8本の映画についてちょっと。 5本はこれまで見逃してきた韓国映画です。 「グエムル 漢江の怪物」 ポン・ジュノ監督 ソン・ガンホ主演 「春夏秋冬そして春」 キム・ギドク監督 「悪い男」 キム・ギドク監督 「私の頭の中の消しゴム」イ・ジェンハ監督 ソン・イェジン主演 「トンマッコルへようこそ」パク・クァンヒョン監督 「潜水服は蝶の夢を見る」ジュリアン・シュナーベル監督 「最高の人生の見つけ方」ロブ・ライナー監督 ジャック・ニコルソン モーガン・フリーマン主演 「ジプシー・キャラバン」ジャスミン・デルラ監督 3日で9本というのは学生時代にもなかった見方で我ながらアホ〜ンなおっさんだと思います。 5本の韓国映画を続けて見た感想をひとことで言えば、「韓国人の映画に対する素朴な信仰の力はすごい!」ということになるでしょうか。 これを映画への愛とさらに簡単に言ってしまってもいいのですが、その愛ゆえにスタッフもキャストもあり得ないエネルギーを消尽して一本の映画を作り上げてしまうようです。作家性のまったく異なる監督をこんな風にくくっても何の意味もないんですけどね・・・ 今回見た5本の映画は「トンマッコルへようこそ」以外はどれも非常に面白かった。とくに「グエムル 漢江の怪物」の荒唐無稽さ、大好きな俳優ソン・ガンホの怪演ぶりに拍手喝采!ソウルを流れる漢江に現れた突然変異の怪物のリアルな質感と馬鹿げた運動能力にも唖然とします。 この映画が傑作「殺人の追憶」と同じ監督が撮ったというのがこれまたすごいところです。みなさん、この2本は必見です! 「春夏秋冬そして春」が今回の5本のなかでは一番好きな映画かな・・・。 たぶん韓国でなければ作れない映画、人里離れた山の中の湖面に浮かぶ幻想的な僧堂を舞台にした老僧と少年僧侶の成長と破戒の物語・・・これまでにも「曼陀羅」や「達磨は東に・・・」など韓国映画には同じような主題の多くの作品がありますが、いまや世界の映画祭で鬼才の名をほしいままにしているキム・ギドク監督の映画はそうした映画の枠に収まるわけがありません。 映像の美しさは比類なく、湖面の僧堂もセットで作り上げたと聞くだけでひれ伏したくなる(大げさ!)「映画への愛の形」ですが、後半の展開の意外性、人間存在の闇に氷の炎を燃やして灯りをともすような怖ろしく静謐な場面の連続にはボクも静かに心打たれてしまいました。 「私の頭の中の消しゴム」は日本でも大ヒットした純愛お涙映画ですが、ボクも主演のソン・イェジンには惚れてしまいました。なんちゅう可愛さ、なんちゅう透明感・・・特典映像でのごくごく普通の女の子ぶりにも好感度アップ! なんかまた長くなってきましたのでもう少しだけ。 ジュリアン・シュナーベル監督の「潜水服は蝶の夢を見る」も面白かった。 40代で脳卒中の発作により眼球の動き以外の身体能力を失ったフランスの女性誌の男性編集長の実話を元にした映画です。 唯一残った左目のまばたきだけでコミュニケーションを取ることを療法士の執拗な努力から身につけた男がついにまばたきの力だけで自伝を書き上げるまでの途方もない時間・・・映画ではその時間の深い長さはあまり描写されませんが、療法士が使用頻度順に発するアルファベットにまばたきで応えながら言葉を紡ぐやり方が日本とフランスでは異なることを知りました。 ボクの知っている限り、日本では透明なボードに印字された「あいうえお五十音」を瞳の動きで察知しながら言葉を編み上げて行きます。 重度のALS(筋萎縮性側索硬化症)に罹り長く闘病している友人がいるので実際に文字盤を通して会話したことがあるのです。大変な労力が必要です。 映画の主人公はまばたきで自伝を書き上げましたが、ボクの友人はまだ残る手の指一本の力でパソコンで曼陀羅図を何枚も描きあげ、横浜美術館で個展まで開くことができました。 あたりまえのことですが、一本の映画からは様々なことが想起されますね。 「潜水服は蝶の夢を見る」のジュリアン・シュナーベル監督はアメリカ現代美術のバブル期をニューペインティングの旗手として疾走した作家ですが、近年映画監督として多くの作品を発表しています。 未見ですが「夜になるまえに」は傑作だと下田昌克君が言ってました。 実はきのうもTSUTAYAで韓国映画のDVDを3本借りようとカウンターまで持っていったのですが、なぜかTSUTAYAのカードが見あたらずさびしく撤退・・・家で調べたら財布のなかに他のカードにまぎれてちゃんとあったじゃないか・・・。だからおっさんは困るのことよ!
by kuukuu_minami
| 2009-02-06 01:46
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