ユーリー・ノルシュテインのこと
ユーリー・ノルシュテインは彼のアニメーション作品を見たことがある人なら文句なしに尊敬を捧げる芸術家だと思います。

もう何年も前のことですが、ノルシュテインが日本に滞在している時に、彼の最も親しい日本の友人・みやこうせい、児島宏子宅で開かれた小さなパーティにスズキコージや片山健さんたちと共に呼ばれたことがありました。
その夜のことはいまでもよく覚えています。酒と笑いと歌とが行ったり来たり、ユーラ(親しい人はこう呼んでいます)も気持ちよく酔ってロシアの子守歌や童謡をやさしく歌ってくれた、あの時間は夢のような記憶として残っています。

その後、彼はボクが経営していたKuuKuuという店を気に入って、東京に滞在している間は何度も足を運んでくれたものでした。グルジアワインを飲みながら店の隅々をゆっくり見てまわるのが楽しみのようでした。ときおり、コースターにハリネズミのデッサンをさりげなく残して・・・ユーラはKuuKuuを愛してくれていたらしいのです。閉店を知ったときのユーラの悲しみはいまでもよく話題になるのですが、そのことを書いているとキリがないし、寂しくなるので、つい最近感動したノルシュテインのことを少しだけ書きます。

12月5日、今回の日本滞在のスケジュールの最後の日、阿佐ヶ谷のラピュタでのパーティにみやさんから突然誘われ、ちょっとだけ顔を出して、その後の数時間を西荻のみやさん宅で過ごすことになり満月の下4人で歩いてみやさんの家に向かいました。

家に着くとユーラはさっきのラピュタのパーティのときに若い女性ファンからいただいた小さな竹とんぼのおもちゃを取り出して、これを壊れないようにロシアに持って帰るために宏子さんにちょうどいい箱がないか探してもらっていました。いろいろな箱が取り出されましたが、ちょうどいい大きさのものがなく、ユーラはカッターとはさみとセロテープで大きめの箱を小さな箱に仕立て直しはじめました。竹とんぼはたぶん300円くらいのどこにでもあるような素朴なものですが、ユーラはなんども大きさを確かめては器用に箱を仕上げました。ボクはそばでその姿を見ながら、なんか感動してしまいました。まるで少年が自分の宝物をしまう箱を無心に作っているように見えたのです。自分のために選んでプレゼントしてくれた若い女性ファンの気持ちが彼にとっては宝物だったのでしょうか。

きれいに紙箱におさまった竹とんぼを見て、ユーラははにかむような笑みを浮かべました。素晴らしい人だと思いました。
その間、みやさんはいそいそと北海道から送られてきた蟹をテーブルに並べたり最後の晩餐の支度をしていました。そのうちにみやさん撮影のノルシュテインの写真集を出版した未知谷の飯島さんやロシア語がとても上手なKさんもやって来て賑やかな宴になりました。
ビールと大きな2匹の蟹が瞬く間に平らげられ、みやさん秘蔵のルーマニアのスピリッツ「ツイカ」が振る舞われるころにはみんなすっかり上機嫌です。

ボクは明日ロシアに帰るユーラになにかプレゼントしたくなったのですが、鞄の底をはたいても何も出てきません。そこで、夜自転車で帰るために持っていた毛糸の手袋をユーラに渡しました。それはわが妻がNY公演の折りにお土産として買ってくれた「記念の手袋」だったのですがユーラにならあげても叱られないだろうと、思ったのです。ユーラは嬉しそうに自分の手に手袋をはめていましたが、どうもユーラの手には小さ過ぎるようなのです。さっきの紙箱を作っているときのように、一生懸命それぞれの指にはめようとしているのですが、「うーん、小さいなあ」とため息をつくので、ボクが「フランチェスカにはどう?」と言うと、ユーラは「そうだ、フランチェスカならちょうどいい!」と嬉しそうに笑ってくれました。フランチェスカはノルシュテインのデッサンをもとにアニメーション作品の作画をしている、ユーラの最愛の奥さんです。
ロシアの冬の寒さのなかでフランチェスカがあの手袋をしてくれているのを想像するだけでボクもほっこりしちゃうわけです。

ユーリー・ノルシュテインの作品はいまではDVDで簡単に手に入りますし、下の画像のみやこうせいさんの写真集も素晴らしいです!未知谷刊です。未知谷からはボクの本も2冊出してもらってます。ついでにヨロシク!
http://www.michitani.com/

よく同時代に生きていることの幸せ、っていうような事を聞きますが、ボクにとってはユーリー・ノルシュテインがその人かもしれません。ありがたいことです。
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by kuukuu_minami | 2006-12-17 11:13


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